大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和32年(ヨ)1095号 決定

申請人 合成化学産業労働組合連合会日本合成化学熊本労働組合 外一名

被申請人 日本合成化学労働組合 外一名

第三債務者 住友信託銀行株式会社

主文

被申請人等は別紙目録記載の債権について本案訴訟判決の確定まで取立譲渡その他一切の処分をしてはならない。

(注、保証金計二十万円)

(裁判官 木下忠良 神保修蔵 野田栄一)

(別紙)

債権目録

第一、被申請人日本合成化学労働組合が第三債務者に対して有する被申請人吉野正三名義の信託預金壱百参万壱千壱百弐拾円也

第二

一、被申請人日本合成化学労働組合が第三債務者に対して有する被申請人吉野正三名義の信託金九拾壱万八千九拾円也

一、被申請人日本合成化学労働組合が第三債務者に対して有する被申請人吉野正三名義の定期預金五拾万円也

以上第一及び第二の各債権額のうち申請人日本合成化学熊本労働組合の持分として千七百参拾九分の七百七拾九、申請人日本合成化学大垣労働組合の持分として千七百参拾九分の六百九拾壱の各割合による金額

【参考資料】

仮処分命令申請書

債権者 合成化学産業労働組合連合会日本合成化学熊本労働組合

同 合成化学産業労働組合連合会日本合成化学大垣労働組合

債務者 日本合成化学労働組合

同 日本合成化学労働組合内 吉野正三

第三債務者 住友信託銀行株式会社

債権取立並びに債務支払禁止の仮処分命令申請事件

債権の表示

別紙目録記載の通り

申請の趣旨

債務者等は別紙目録記載の債権について本案訴訟判決の確定まで取立譲渡その他一切の処分をしてはならない。

第三債務者は債務者等に対して右債務の支払をしてはならない。

との裁判を求める。

申請の理由

(当事者の構成)

一、申請外日本合成化学工業株式会社は本店を大阪市におき、熊本県宇土郡宇土町及び大垣市に工場を有し、化学肥料等の生産販売を営業しているものであるが、債権者は同会社熊本工場の従業員七百七十九名をもつて組織されている日本合成化学熊本労働組合及び同会社大垣工場の従業員六百九十一名をもつて組織されている日本合成化学大垣労働組合で、申請外日本合成化学産業労働組合連合会を結成している。

債権者日本合成化学熊本労働組合はもと日本合成化学労働組合熊本支部(以下熊本支部と言う)と称し、債権者日本合成化学大垣労働組合はもと日本合成化学労働組合大垣支部(以下大垣支部と言う)と称し、右両支部及び同会社の本店の従業員二百六十九名をもつて組織されている労働組合である申請外日本合成化学労働組合本社支部(以下本社支部と言う)は昭和二十九年四月以来債務者日本合成化学労働組合(以下旧単組と言う)を組織してきたが、同組合は昭和三十二年二月後述の如く分裂したので、熊本支部及び大垣支部は同年四月申請外日本合成化学労働組合連合会を結成し、両支部は前述の如く夫々単一組織となつたものである。

なお債務者吉野正三は債務者旧単組の前会計である。

(紛争の経緯)

二、旧単組は昭和三十一年八月の定期大会において昭和三十二年三月会社に対して賃上要求を行うことを決議したがその後同組合本部執行委員会(以下旧本部執行委員会と言う)は会社の経理内容を唯一の理由として賃上は行うべきでないとして臨時大会を招集し本部提出議案として、

(一) 運動方針の修正

(二) 本部役員辞任

(三) 後任役員選出を提案することに決定した。

これに対し熊本、大垣支部は

(一)号議案反対

(二)(三)号議案賛成との態度を示し、本社支部は、

(一)号議案賛成

(二)(三)号議案反対の態度を示したので昭和三十二年二月十六、七日各支部長書記長会議を、同月二十六日本社支部熊本支部懇談会、本社支部大垣支部懇談会、三支部懇談会を順次開催して意見の調整に努めたが意見の一致をみなかつた。

かかる情勢のもとに臨時大会は昭和三十二年二月二十六日より三日間に亘り開催されたが、大会最終日である同月二十八日一号議案である運動方針の修正案について採決に入つたところ、本社支部は退場して採決に加わらなかつた。そこで議長は本部提案は廃案となり、前記昭和三十一年八月大会の運動方針にかえつたことの確認をとつた。続いて本社支部を議場に呼びもどして二号議案である本部役員の辞任について審議に入り採決しようとしたところ、本社支部は再度退場せんとしたので議長はいち早く採決確認を宣言し、本部役員の辞任が決定したが、本社支部は退場したのでそのまま新役員を選出し、賃上要求案作成を審議決定した。ここにおいて旧本部執行委員会は事態収拾のため新に選出された執行委員に賃上についての権限を移譲し本社支部はこれを黙認することを提案したが、翌二十九日にいたり旧本部執行委員会の態度は一変し、組合規約第二十八条により大会は本社支部の退場によつて成立していないとの理由で賃上についての権限移譲は絶対に認めないとの態度を表明するにいたり辞任しようとする気配は全くなかつた。

そこで熊本支部大垣支部は組合規約第十五条第二号により熊本支部は昭和三十二年三月二十八日に、大垣支部は同月二十六日及び同年四月一日の二回に亘り二週間以内に事態収拾のための臨時大会を開催することを旧執行委員長貫栄右衛門に対し要請したが今日にいたるも臨時大会は招集されなかつた。

かくして日本合成化学労働組合は昭和三十二年三月に賃上闘争を行うことを決定しながら、旧本部執行委員会及び本社支部はその要求案作成にすら応ぜず、本社支部は右組合の最高決議機関である大会においては規約を悪用して多数決原理に服することを拒否し、そのうえ同組合の正当な執行委員会であると称する旧本部執行委員会は同組合規約を無視して臨時大会を開催しなかつたため組合の機能は完全に麻痺し、同組合は事実上分裂するにいたつた。

ここにおいて熊本支部大垣支部は旧単組の右の如き分裂を確認した上、昭和三十二年四月十五日前記の如く連合会を組織して、会社に対し賃上要求を行い、現に闘争中のものである。

(旧単組の会計財産)

三、旧単組の会計業務は執行委員中より執行委員長が任命した会計が統轄し、会計内容は一般会計と特別会計にわかれており旧単組の会計は申請外平谷吉高であつたが、預金は前会計債務者吉野正三名義となつていた。而して旧単組は特別会計に闘争資金として別紙目録第一記載の債権を、救援資金として別紙目録第二記載の債権を各有しているほか一般会計にも若干の預金債権があり、備品什器類もあるが、その詳細は目下調査中である。

(被保全請求権)

四、前述の通り旧単組は熊本支部大垣支部及び本社支部に事実上分裂し、熊本支部大垣支部は申請外日本合成化学労働組合連合会を結成したので、旧単組は完全に分裂した。

旧単組の財産は旧単組執行部会計申請外平谷吉高によつて管理されているものであるが預金名は前会計債務者吉野正三名義となつているものであり右財産は旧単組傘下の各支部が醵出した組合費によつて蓄積されてきたものであるから、旧単組分裂後においては、右財産は債権者並びに債務者組合の共有に属すべきものである。而して債権者は旧単組の財産について組合員数の割合による分割請求権を有するものである。

尚熊本労組の持分は千七百三十九分の七百七十九、大垣労組の持分は千七百三十九分の六百九十一である。

(保全の必要性)

五、現在債務者組合はその保管している共有財産を分割して債権者に対し任意に引渡すことを拒否しているので、債権者は債務者組合に対して共有財産分割請求訴訟の提起を準備中であるが、債務者は右財産を処分隠匿するおそれがあり、かくては、債権者は回復することのできない損害を蒙るので本申請に及ぶ次第である。

疏明方法〈省略〉

岸星一 外三名

大阪地方裁判所 御中

(別紙省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例